「最初に申し上げておきますが、私は清さんとは親戚ではありません」
ペーパーキルトという貼り絵の技法で作品を制作している山下さんは、名字と制作スタイルが同じというだけで質問される一件に、ちょっと困っている様子。テレビドラマの影響で、つい人はそう聞きたくなるものらしい。紙をちぎって貼り付けていた清さんとは、テツさんの技法は少し違う。
「カッターナイフで○、△、□を切り出して、それを貼り付けていくことで固有のカタチを表すのが私のやり方。B全サイズの作品では、約2ヵ月半ほど制作期間がかかります」
この技法による作品は、カンヌ国際展覧会2007(Le Salon du Monde de la Culture et des Arts Cannes-Azur 2007)で銀賞を受賞。これを機にグラフィックデザイナーとしての生活に区切りをつけ、作家活動に専念することになった。授賞式にも出席し「メダルを首にかけられて初めて実感した」というコメントは、本学ホームページのトピックスでも紹介されている。
そして翌年、同じくカンヌ国際展覧会2008で大金賞(グランドメダル)を受賞! したが、とんでもない事態も起こったという。
「’07年の受賞で弾みがついたというか、5月に銀座で個展を行うことになって準備で大忙しの時期に、それも初日直前にフランスから手紙が届いたんです。あとで読めばいいやと思って置いといて一段落してから翻訳して読んでみたらびっくり! なんと授賞式の招待状だったんです。それもグランドメダル。しかも終わってたんです。大慌ててお詫びの手紙を書いて送ったら、そんな事情ならと了解していただいた返事が来てホッとしました。いやぁ驚きました(笑)」
カンヌの主催者も驚いたというか不審にも思ったはずだが、事無きを得たようで、
「’09年も出品できることになって、テーマは先方に連絡してあります」とのこと。
さて’07年のテーマは音楽、続いて’08年のテーマはアフリカだった。これには在学中に日本アフリカ文化交流協会の留学生として赴いた、ケニアのナイロビをはじめとする5カ国での1年間に得た劇的なインスピレーションが大きく反映されているという。
「”ジャングル大帝”を読んで育った世代ですからアフリカは憧れの地。その大陸の大きさと人々の暮らしからのインプットは強烈でした。やってたことはあとで思えば珍道中そのものなんですが(笑)」
ピカソやモディリアーニの例を引くまでもなく、まったくの異文化の地は、アーティストに鮮烈な刺激を与えるようだ。その詳細は、ご本人のホームページ・http://www.k3.dion.ne.jp/~gallery9/3/index.htmlをご覧ください。
「そのときに知りあった方がアトリエを提供してくださって、活動の拠点を関東に移すことができました。不思議ですねぇ。アフリカが取り持つ縁です」
そして当面の目標は、ニューヨークで展示を行うこと。
「大学の卒業製作に貼り絵作品を提出して以来、この手法でずっとやって来ました。ヨーロッパで成果を得たので、今度はニューヨークで自分の作品を試してみたい」
さらに’09年5月、うれしいニュースがもたらされた。カンヌ国際展の出品作が前年同様「グランドメダル」を受賞。6月27日、カンヌ市役所において午前11時より催される授賞式に臨席することになったのだ。
ニューヨークの件については、いずれご紹介できるかも。乞うご期待を。