「父は油彩で絵を描いていましたが、高校に入るまで絵とはあまりかかわりがなかったんです」
高校の普通科に進学した佐々木さんに影響を与えたのは美術の教師だったという。
「人生の師といってもいい方に出会って、生活の中で感じたことや疑問、美しさ、社会情勢まで絵で表せるという世界が自分の前に開けたんです」
だれでもが見たり感じたりしているが、自分が見える世界はちょっと違う。そこで表現できる美しさや深い印象があることを発見したということのようだ。とはいえ普通科高校から美術大学への受験準備は大変だったようで、いま受験に臨む若い学生たちには若いころの自分を見る思いという。
「日展の特選は2回いただいていて1回目のテーマはライオンでした。天王寺動物園でライオンを見て、檻の中から外を見るしかない彼の不自由さが人間とオーバーラップしたんですね。守られているけど自由じゃない。そんな状況を表現したかったんです」
2回目が第39回での受賞で、タイトルは”午後の庭”。
「テーマは家族でした。描いているのはあえていえば日だまりでしょうか。物体ではなく日常に流れている時間のなかでの出来事、バックグラウンドから感じる印象がテーマになるんです。そうすると必ずしも定まったカタチではなく描きたい何かが出現してくる。イメージは揺らぐんです。そこで膨らんでくる。それが私の絵になる」
佐々木さんの作品は、一般の日本画とは異なり抽象画だ。となると画材は自由に選べそうだが、あえて岩絵の具を用いる理由は、「岩絵の具というのは、同じ色でも粒子が粗いと濃くて暗い、細かくしていくと浅くて明るくなる。しかも色を混ぜられない。この制約があるからこそ面白いんです。ちょっとひねくれてますか(笑)」
さらに基調にしている黄土色にも意味があるという。
「セピアカラーというんでしょうか、時間の経過を感じる移ろいの色という印象があって、このような色調になっているんでしょう。リアルタイムの色ではない、追想や追憶というイメージもこの色からはにじみ出ています。白からは感じられない感覚と言いましょうか…」
いずれにしても、言葉では言い表せない何かを表現するために絵画という手段を用いているのだから、あとは作品に触れて感じるしかないようだ。
「見る人によって印象はそれぞれです。作者の意図とは異なる感覚を覚える方もいらっしゃるでしょう。それもまた面白い」
次の作品は、さらにシュールでミスマッチな世界を表現したいという。不思議さや現実離れしたイメージを感じさせる日本画によって、自分に見えている世界を紙上に表現していく作業はこれからも続く。
兆し 2008第40回日展
遠い日 2009グループ玄展
経つ 2009第44回日春展