一般社団法人 名古屋芸術大学美術・デザイン同窓会
OB・OGの輪

受け継ぐべき文化遺産として

OB002_L1020467web
旧車趣味の楽しみと意義とは

丸山浩史さん デザイン科 20期卒

「古いクルマに乗っていると、現代の車では考えられないような出来事が起こります。高速道路ガス欠事件はそのひとつです(笑)」

 丸山さんが1967年製造のルノー8ゴルディーニを手に入れたのは’94年のこと。その数年後、長野県で行われたフレンチブルーミーティングの帰途でその事件は起こった。

「このクルマはリヤエンジンなので、重量配分を適正にするためにガソリンタンクが二つあるんです。友人に運転をまかせ、その使い方のコツを伝えずに僕は横で眠ってしまい…」

 リヤエンジン車は、車両を構成する重量物が車体後半に集中している。で、走行性能を高めるために少しでも前半に重量がかかっているようにしたい。そこでガソリンタンクが二つある場合は後ろから使いはじめ、使い切る手前で前のタンクへとコックを切り替える。友人はそのことを知らず後ろのタンクを使いきりエンジンがストップしてしまった。

「こうなるとどうしようもないんですね。当時は機械式の燃料ポンプがついていたので、エンジンが動いていないと満タンの前タンクからガソリンが供給されない。でも後タンクはガス欠でエンジンは動かない。アタマ抱えましたね」

 結局クルマを路側帯に止めて次のインターチェンジまで歩き、街へおりて灯油ポンプを調達して前タンクから後タンクにガソリンを移し、やっと走り出したときには深夜だった。

OB002_L1020468web
ルノー8ゴルディーニのエンジン

フレンチブルーのマトラはこんな状態

「その後すぐに電磁ポンプに交換しました。でもそれだけじゃ終わらない(笑)」

 それからもエンジンの4気筒のうちひとつに穴が開き3気筒に。また数年後ピストンリングが折れてエンジンルームに白煙が充満。さらにブッシュ交換、オルタネーター交換、ドアヒンジの修理と、主な作業だけでも盛りだくさんだ。
「クルマは僕にとって1/1のプラモデルのようなもの。失敗を繰り返しながら自分で組み上げたエンジンの整備にも、3回目にしてようやく自信がつきました。最近、8年間は快調ですから、ここまで仕上げればクルマの方が僕より長生きするんじゃないかと(笑)」

 彼は、自動車の世紀と言われた20世紀のクルマを維持管理して運転を楽しみ、いずれは文化遺産としての価値が理解できる後継者に引き継ぐことに意義を見いだしている。

「こんな思いを抱くようになったのは、義理の父が亡くなったあとに起きた出来事が、ひとつの要素になっているのかもしれません。義父が大切にしていた2台のイギリス車は、それぞれ受け継ぎたいと申し出ていただいた人たちのもとへ引き取られていきました。僕自身がとも思ったのですが、継承していただける人のもとで暮らすことが、車にとっても良かったんです。そうするとこの8ゴルディーニもいずれは誰かに受け継いでもらう時期が来るんじゃないかと…」

 現在マトラ・ジェットという希少なフランス車のレストアにとりかかっているのもこの思いがあるからこそ。この車は彼が8ゴルディーニの整備をさせてもらっている工場に長く滞在していた。

「’65年の車なので正式にはマトラ・ボネというらしいんですが、元々はルネ・ボネ・ジェットという名前で、作っていた会社がマトラに買収された時期に生産されたらしいです。ボディのデザインはマルセル・ユベールで…」

 詳細な話はあまりにマニアックなので同窓会総会のときにご本人に確認してください。とにかく、前オーナーが途中まで仕上げたマトラを何とか走行可能な状態までにと取り組んでいるのだ。とはいえ…。

「40歳までに完成が目標であと2年。でもマトラは仕上げたら、どなたかに引き取ってもらうかもしれませんね。身体はひとつですから、8ゴルディーニと両方を充分に走らせられるとは思えないし…。古いクルマを手に入れるとその歴史を継承する責任も背負わなければならないのですから」

 車趣味の世界ではマトラ・ジェットの価値は8ゴルディーニより高いかもしれない。でも彼は、自分の感覚において、まず8ありきという、歴史的価値に重きを置いた想いに忠実だ。そんな潔さこそが文化遺産としての自動車に対峙する、彼の姿勢を物語っている。

OB002_Matra Djet03web

OB002_P1090476web

OB002_Matra Djet05web

PAGETOP